前回の続きです。
私はAさんの話をまとめながら、Aさんの考え方や行動が悪循環を形成していることを説明しました。Aさんもそのことはすぐに飲み込めた様子でした。そこで、次の診察までに、その悪循環を図表にまとめてくるようにAさんに宿題を出しました。これは市販されている認知行動療法の本に紹介されている図表の形式を使用しました。Aさんはまじめな方なのできちんと書いてきてくれました。そして、悪循環を断ち切るためにできる「行動の変化」を一緒に考えました。認知行動療法というと文字通り認知が行動の先にあり、なんとなく認知(考え方)を変えるほうが本質的なイメージがありますが、認知を変えるというのは、実は簡単ではないのです。悪循環を断ち切るための行動を変える方が、少なくとも出だしのときは、うまくいくことが多いのです。Aさんと話し合った結果、「仕事が途中の段階でも、上司に相談してみる」「酒に頼らないようにするために抗酒薬を飲む」という行動をやってみることになりました。この時点で、治療は教科書的にスムーズに進んでいるように思われ、私は治療の成功を期待していました。ところが実際には、この方法はうまくいかなかったのです。業務の負担が少し増えた時に再び休みがちとなってしまったのです。失敗の主な原因は、「仕事が途中の段階でも、上司に相談してみる」という行動がAさんにとってハードルが高すぎたためでした。結局、仕事を抱え込んでうまく処理できず、不安感から酒に頼るようになり、抗酒薬も飲まなくなってしまうのです。Aさんは「つらいので、病休を取ってしっかり休むことも考えたい」と言い出しました。「休むだけではこれまでの繰り返しでまったく解決にならない」とAさんに伝えつつ、しかし、ではどうすればよいかという方法はこの時思いつきませんでした。いったいどうすればよいのか・・・困っていた時に解決は思わぬことから得られたのです。