<うつ病治療の落とし穴>

うつ病もイロイロですよ!

最後の話題はうつ病の診断についてです。「うつ病は増えている」「自殺者の大半がうつ病だった」といった報道がなされ、社会的にもうつ病は関心をもたれています。現在、世界的に使用されている診断基準は、WHOによるICD-10とアメリカ精神医学会によるDSM-ⅣTRですが、どちらも「どのような症状がどのくらいの期間持続しているか。また、そのような症状がいくつそろっているか」という操作的診断と言われるものです。簡単に言うと、こういう症状がありますか?と、当てはまるものに○をつけて、最終的に○の数がそろえばうつ病という感じです。原因ではなく症状による分類なのです。この診断基準が一見アンケートみたいに誰でもチェックできそうな印象を与えるためか、最近は自分でチェックして「自分はうつ病だ」と決め付けてしまうような方もいらっしゃいます。企業の方と話していると、「うつ病という診断書を振りかざして休みを要求する若い子がいるが、よく喋るし、他罰的で全然自責感なんて感じられない。ホントにうつ病なのかしら?」といった疑問の声をよく聴きます。「自分はうつ病だから頑張れない」と主張し、従業員として当然果たすべき義務を免除させろという事らしいのです。こういうタイプの「うつ病」と、古典的な(?)、几帳面で責任感が強く、なかなか休めないタイプの「うつ病」は、果たして同じものなのでしょうか?

Aさん:50代男性。実直なタイプ。特に、直接業績として評価されないような雑務的な仕事を率先してやってくれるので同僚からの評価は良い。しかし、ここ数年会社が業績至上主義的な経営方針に変わり、最近は上司から数字を上げられない事でたびたびイヤミに近い叱責を受けるようになった。それでも、頑張ってやってきたが、2ヶ月前頃から、抑うつ気分・不眠・食欲低下・集中困難・意欲低下が出現し、妻に勧められ受診となった。治療上休むことを勧めるが「今はとても休める状況でない」と拒否される。
Bさん:20代男性。自信家であるが、他人の評価に敏感で些細なことで傷つきやすい面も持つ。2年前に就職したが、「上司が有能でなく、指示通りに仕事をするとうまくいかない」「そのくせ、自分のやり方を認めてくれない」と訴える。最近では、その上司と顔を合わせるのもイヤで出社することが苦痛になってきた。抑うつ気分・不眠・食欲低下・集中困難・意欲低下が出現し、受診となった。「しばらく会社を休みたいので、診断書を書いて欲しい」と要求する。

Aさんは典型的な「うつ病」です。Bさんも症状だけを見ると確かに「うつ病」なのです。しかし、この2人が同じ病気とは考えにくいのではないでしょうか。最近、Bさんのような「うつ病」の方が増えているようです。このBさんのような性格傾向を自己愛性パーソナリティ傾向といい、最近若い人で「うつ」を訴えて受診される方に少なからず認められるものです。実は、実際の診断は症状のみでなく、その人のパーソナリティや心理社会的または環境的要因をすべて考慮してなされるのです。そうすると、AさんもBさんも「うつ病」であるけれども、パーソナリティや環境を考慮すると、この2人の「うつ病」には違う面もあるということになります。「うつ病」もイロイロというのはそういうことです。これは治療にも関わってきます。Aさんの「うつ病」は休養と服薬と環境調整で改善が期待できますが、Bさんの場合は自己愛的な「パーソナリティの偏り」が背景にありますから、この点に何らかのアプローチを工夫しないとうまくいかないのです。